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初乳製剤の開発販売と内閣総理大臣賞を受賞した「神戸高見牛」を肥育している神戸高見牛牧場株式会社のサイトです。安心・安全な飼料と環境にこだわり最高の和牛、高見牛を飼育しています。

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肉牛ジャーナルよりJOURNAL


はじめに

髙見氏

 繁殖に携わっている人にとって最も辛いことは、生 まれてきた子牛が死んでしまうことではないだろう か。このことは経営上マイナスなだけでなく、生産者 にとって精神的にも大きなダメージとなって残ってし まうと聞く。子牛の主な死亡理由は下痢や肺炎といっ た疾病になると思うが、こうした疾病の対策として考 えなければならないことの1つに初乳が上げられる。 兵庫県丹波市で黒毛和種約1200頭を飼養し、一部一 貫経営を行っている神戸髙見牛牧場(株)の髙見進代 表取締役(写真1)は、人工哺乳で育てた自家産牛の うち、約10〜15%が生後6ヵ月以内に死亡するという ことが長年続いていた。様々工夫をしてみたものの、 なかなか改善せず悩んでいたところ、一昨年のはじめ に初乳に目を付け自ら初乳製剤の開発に取り組みはじ める。そうして完成した初乳製剤を使い始めて以来、 現在に至るまで子牛の生存率100%を維持し続けてい る。では、どのような初乳製剤を開発し、どのように 利用することで子牛の生存率100%を実現したのであ ろうか。(取材日:1月22日)


生産から販売まで

 初乳製剤の話をする前に、まずは神戸髙見牛牧場 (株)(以下、髙見牛牧場)の概要から説明する。 髙見牛牧場は髙見氏と12人(事務員含む)の従業員 で黒毛和種の一部一貫生産を行っている。飼養頭数は 約1200頭で、そのうち繁殖牛が約270頭(うち160頭が 純粋但馬牛)を数える。髙見氏は優れた肥育技術を持 つ生産者として知られ、第6回全国和牛能力共進会大 分県大会の第12区(父系去勢肥育牛群)において優等 賞1席ならびに肉牛の部の内閣総理大臣賞を受賞した のをはじめ、数々の枝肉共励会で最優秀賞に輝いた実績を持つ。 牛舎のある場所が兵庫県ということで飼養している のは但馬牛だけと思われるかもしれないが、ここでは 様々なタイプの牛を飼養していて、自家産の純粋但馬 牛の他に県内の子牛市場から導入した純粋但馬牛や宮 崎県からの導入雌牛に家畜改良事業団や民間の種雄牛 を交配した自家産牛もおり、大雑把に分けると①自家 産(但馬牛×但馬牛)、②自家産(宮崎県産雌牛×県 外種雄牛)、③県外産導入牛、④県内産導入牛(純粋 但馬牛)の雌と去勢(雄)に分けられる。 ここで飼養管理の簡単な流れを説明すると、自家産 の子牛は生後丸3日で母子分離してハッチへ移し、そ こで20〜30日間ほど人工哺育する。続いて6頭1群で 哺乳ロボットを用いるか、3頭1群で人の手により 3.5ヵ月齢まで人工哺育される。その後、3頭1群で 9ヵ月齢前後まで育成し、導入も自家産も血統も性別 もあまり深く考えず、大きさで揃えて7〜8頭1群で 肥育を開始。そして出荷によってマスに空きができる とその際に性別等を考慮して、3〜4頭1群に分け30 〜33ヵ月齢で出荷となる。 髙見牛牧場は生産した牛肉を直接消費者に届けるた めにプロセスセンターや精肉店、レストランの経営も手掛けていて、県外産の牛についてはほとんど自社で 販売するか希に神戸市場へ出荷し、但馬牛については 神戸市場や加古川市場へ出荷することとしている。

初乳製剤開発のきっかけ

髙見氏

 髙見牛牧場では母牛の発情回帰を早めることと、母 牛の乳質や乳量のバラツキによる子牛の発育不良や大 きさの不揃いを防ぐことなどを目的に人工哺育を行っ ている。しかし髙見氏によると、今では全て生後3日 で母子分離しているものの、以前は、純粋但馬牛は若 干体質が弱いと言われているため生後3ヵ月間は親付 とし、それ以外は母子分離していたという。ところが、 但馬牛より体質が強いと思われる県外の血統の子牛で も、必ず一定数が子牛のうちに死亡してしまっていた。 そこで髙見氏は、母牛の初乳の質や量のバラツキによ る影響を抑えるために、いくつかのメーカーの初乳製 剤を使ってみたり、生菌剤やビタミン剤、オリゴ糖、 有機・ミネラル抗菌剤、納豆菌など、子牛に良いと言 われるあらゆる資材を様々なパターンで組み合わせて 使ってみたりしたとのこと。しかし、これだけいろい ろ試してみたにもかかわらず、どうしても生まれた子 牛の10〜15%は生後6ヵ月以内に死亡してしまってい た(表1)。また、生き残った子牛も全頭が健康だっ たわけではなく、生後6ヵ月になるまでに下痢や肺炎 に罹ったり6ヵ月を過ぎた後に体調を壊したりして順 調に肥育まで進まない牛も少なくなかったという。 こうした状況の中、髙見氏が何か良い手立てはない かと思案していたとき、たまたまニュージーランドか ら日本にカシスを輸入している人と知り合った。カシ スはβカロテンやビタミンA、B1、C、Eといった ビタミン類、血流改善の効果や抗酸化作用を持つポリ フェノール、目のピントを合わせるのに効果のあるア ントシアニン、さらにはカリウム、カルシウム、マグ ネシウム、亜鉛、鉄などを豊富に含んだ果物で、カシ スのエキスは人間用のサプリメントとして広く利用さ れているほか、その搾り粕は家畜用の添加剤として活 用されていて、家畜の疾病予防や発育増進に効果が認 められているとのこと。髙見氏はこの知人からそのカ シスの添加剤を「牛に使ってみないか」と提案され試 しに子牛に与えてみたところ、確かに肺炎などの疾病 が減少したという。そうしたところ、今度はカシス繋 がりでニュージーランドの大手粉ミルクメーカーの担当者と知り合うことができたそうだ。この粉ミルクメーカーは、ニュージーランドの広大 な牧草地で牧草だけを食べている母牛のみを搾乳し て、人間用の粉ミルクと牛用の初乳製剤を製造してい るのだが、広大な牧草地でストレスなくビタミン・ミ ネラルが豊富な牧草だけを食べた牛から搾乳している ので、極めてビタミン・ミネラルの含量の高い製品を 製造しているという。搾乳に供される母牛の品種は、 ホルスタインやジャージー、ブラックアンガス、ヘレ フォード、ブラウンスイスなどが中心で、牧牛※によ る季節繁殖を行っているため、一度にたくさんの初乳 を搾ることができるので初日初乳のみを使用した高品 質な初乳製剤の製造が可能なのだとのこと。また、乳 用種・肉用種・乳肉兼用種、そしてこれらの交雑種を バランス良く用いることで品質が特定の成分に偏ら ず、成分のバランスが良い製品を安定的に作ることが できるのだという。 そこで髙見氏は、この粉ミルクメーカーで搾乳され る高品質な初日初乳と免疫力の向上に効果のあるカシ スを使って初乳製剤を開発することを思いついたの だという(ちなみに、口絵で掲載したミルクが紫色 だったのはカシスに含まれるアントシアニンの影響)。 ※牛を放牧し、自然交配させる方法


開発開始から製品完成まで

髙見氏

 髙見氏が初乳製剤を開発するのに当たって一工夫加 えたことがある。それは脱脂したことだ。普通、初乳 製剤は脱脂しないのが一般的のようである。その理由 は、新生子牛はもともとの備蓄エネルギーが少なく、 初乳から脂肪を吸収しないと低エネルギー状態になっ てしまって、その後の発育に悪影響を及ぼすからだしかし髙見氏がいくつかのメーカーの初乳製剤を使っ て感じたのは、「脂肪分が含まれているからこそ、初 乳製剤に含まれている各種栄養成分が十分に吸収され ていないのではないか?」ということだった。 新生子牛は免疫グロブリンという粒の大きなタンパ ク質を腸から吸収し、これによって初めて免疫を獲得 する。しかし、この粒の大きな免疫グロブリンを吸収 できるのは生後24時間以内と言われ、早ければ早いほ ど吸収率が高いので可能な限り早く吸収させる必要が ある(詳しくは弊社発刊の「シェパードの獣医さんが おくる繁殖のちょっと役に立つお話」の110頁〜、131 頁〜を参照)。ところが、初乳の中の脂肪が多すぎる と免疫グロブリンと腸の粘膜の間に脂肪が割って入 り、免疫グロブリンの吸収を妨げてしまう可能性があ ると髙見氏は考えた。また人間でも人によっては、サ シがビッシリ入った牛肉を食べると下痢をすることが あるが、脂肪は消化・吸収に時間がかかる上に腸のぜ ん動運動を活発にする作用があるので、過剰な脂肪は 分解・吸収されずに排便されてしまったり、時には下 痢を引き起こしてしまったりすることがある。そこで 髙見氏は、初乳製剤に含まれている脂肪は実は思った より吸収されておらず、しかも免疫グロブリンの吸収 を妨害し、そして十分に免疫グロブリンが吸収される 前に排便されているかもしれないと考えた。そしてそ のせいで免疫が長続きせず、子牛が自分で免疫力をつ ける前に初乳の効果が切れてしまって下痢や肺炎に 罹ってしまうのではないかと推測したのである。実際、 これまで様々な既存の初乳製剤を使ってきたが、どう しても10〜15%の子牛は死亡していたということを考 えると、この仮説は間違っていないのではないかと 髙見氏は考えるようになった。髙見氏は、「確かにエ ネルギーが少ない新生子牛にとって脂肪は大切です。 しかしそれよりも大切なのは、初乳に含まれる免疫グ ロブリンを一刻でも早くたくさん吸収することです。 脂肪を吸収するのはそれからでも遅くないと考えまし た」と述べた。また脱脂したことで思わぬ効果も得る ことができたそうだ。それはミルクを作る際に非常に お湯に溶けやすてダマもできないので、哺乳担当の従 業員の負担が減り作業効率が非常に良くなったという ことだ。さらに脂肪分が含まれていないためサラッと しているので、非常に子牛が飲みやすいのだという。 もう1つ髙見氏がこだわったのは、初乳の高い品質 を活かすために「なるべく余計なものを加えない」こ とだった。そこで、カシスの他には抗菌作用があり免疫力を高める初乳由来のラクトフェリンと製品を安定 させるトレハロースの3つの天然由来成分のみ加える こととした。製品によっては免疫グロブリン製剤を追 加補充したり濃縮したりしてあるものもあるそうだ が、髙見氏が開発した初乳製剤はもともと十分に免疫 グロブリンが含まれていることや、過剰な免疫グロブ リンは場合によっては子牛にアレルギー反応を引き起 こす懸念もあるとのことから、こうした加工はしない こととした。また糖質の1種であるトレハロースが含 まれているので子牛がミルクを甘く感じるのか大変に 嗜好性に優れ、子牛が良く飲んでくれるのだという。 高見氏は、こうして完成した高品質で抗菌力のある 初乳製剤を平成28年(2016年)11月から使い始めたそ うだが、それ以降、死亡する子牛が皆無になったとの こと(表2)。そこで、これを使えば純粋但馬牛も生 後3日で母子分離できるのではないかと考え、自家産 の純粋但馬牛も親付けから人工哺育に切り替えた。そ の後、取材日現在までに200頭以上の子牛にこの初乳 製剤を与えているが、死亡した子牛はただの1頭もい ない上に、生後6ヵ月を過ぎても下痢や肺炎に罹る牛 が非常に少なくなったとのこと。また、早期離乳でき るようになったことで母牛の発情回帰が早まり、分娩 間隔の短縮にも繋がったそうである。


初乳製剤の使い方

髙見氏

 髙見牛牧場では、この初乳製剤を使い始めてから子 牛の死亡がゼロになったわけだが、いくらこの初乳製 剤が優れていたとしても、使い方が正しくなければそ の効果は発揮できない。 通常、初乳製剤を使うのは親牛が育児放棄をしたり、 乳の出が悪かったりした時などの緊急事態の場合が多 いと思う。しかし髙見氏は全ての子牛に初乳製剤を与 えることを推奨している。というのも、 親牛によって 乳質や乳量がバラつくからだ。そして、その際に重要なのは「給与するタイミング」と髙見氏は力説する。 髙見牛牧場では子牛が生まれたら、親牛の初乳を飲 む前に初乳製剤を給与するこ とにしている。なぜなら 舎飼いである以上、いくら分娩房を綺麗にしていても 乳房に細菌やウィルスが付着していることが考えられ るからだ。初乳が新生子牛に必要だとしても、初乳と 一緒に乳房に 付着した細菌やウィルスも口にしてしま えば、せっかくの初乳の効果も失われてしまう。そこ で髙見牛牧場では親牛の初乳を飲む前に初乳製剤を与 えて、細菌やウィルスが子牛の体内に侵入する前に しっかり免疫グロブリンを吸収させるようにしている のだ。しかし、前述の通りこの初乳製剤は脱脂してあ るので、エネルギーを確保するためには脂肪も得なけ ればならない。そこで、初乳製剤を与 えた後で親牛の 初乳を飲ませるようにしているのである。こうすれば 初乳製剤で先に免疫が移行しているので、少々親牛の 乳房が汚れていても問題なく親牛の初乳から脂肪を吸 収できるというわけだ。 また髙見氏によると、先に初 乳製剤を与えておくと初乳製剤を与えていない子牛に 比べて親牛の乳への吸い付きが力強くなり、親牛の初 乳もしっかり飲めるのだという。 こうして自ら開発した初乳製剤 を平成28年11月から 昨年7月までの9ヵ月間にわたって自ら試してみた結 果、初乳以外は飼養管理を変えていないのにもかかわ らず生存率100%を実現した。もちろんその裏には分 娩の立ち会いや夜間の 見回りといったキメ細かな飼養 管理があったわけだが、それを加味したうえでも十二 分に商品として販売できると確信した髙見氏は、昨年 8月に「親はなくとも仔は育つ®」という名前で商品 化すること を決断する(現在、特許申請中:写真2)。 すでに県内の有名一貫農場をはじめ、県内外の50戸以 上の生産者と取引を行っていて、その効果が口コミで 広がり利用者が増加中とのことである。


おわりに

自ら開発した初乳製剤を製品化し、すでに販売もス タートしている髙見氏だが、「この商品で大儲けをし ようと考えているわけではありません」とのこと。そ れよりも髙見氏の心にあるのは、「子牛の死亡で悲し む牛飼いの仲間が少しでも少なくなれば」という気持 ちだ。髙見氏は「私は獣医師でもないし研究者でもな いので、私の開発した初乳製剤やその使い方が理論的 に正しいのかどうなのかはわかりません。ですが、農 家にとって一番大事なのは理論的に正しいかどうかよ りも、生まれてきた子牛が死なないことです。そして、 以前は子牛が死んでいたが、今は死んでいません。こ れが全てです」と述べ、「今後、この製品の利用拡大 によって少しでも子牛の死亡が少なくなってくれれ ば」と話していた。 子牛の死亡率を減らすために自ら初乳製剤の開発に 取り組み、見事、その目的を達成した髙見氏。今度は 「初乳の次はスターター」ということで、今はスター ターの採食量を早く上げるためのサプリメントを開発 中で、農場での試験段階を行うところまで漕ぎ着けた ところだという。初乳製剤の開発にしてもサプリメン トの開発にしても、根底にあるのは「もっと良い牛を 作りたい!」という情熱に他ならない。そしてその情 熱を胸に、これからもチャレンジを続けていくことだ ろ。

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